ダーティー・プロジェクターズ

みなさま、時生へのメッセージ、ありがとうございます。

さて、今日は久々に音楽の話。興味のない方はすっ飛ばしてくださいね。

一ヶ月くらい前に会社の若い音楽好きから、NYはブルックリンのバンド、ダーティー・プロジェクターズの昨年のアルバム「ビッテ・オルカ」を紹介してもらいました。とりあえずiPodに入れはしたもののすぐには聴いていなかったのですが、ある晩、いつものようにお皿を洗いながらiPodをシャッフル状態にしていたら、「ムムム、何だコレは!」と思わずポケットから機械を取り出してアーティストを確認するということに。こういう、先入観も何もなくシビれる状態というのはホンモノである(自分にとって、です)可能性が高く、翌朝、出勤の際に改めてアルバムを頭から聴き始めたら、かなりヘンテコなサウンドで「おいおい、これはちょっとヤバイんでないかい」と心躍り、思わず電車の中から教えてくれた社員に「これイイね!」とメールを打つような始末。

そして、その彼らが初来日、この日一日だけ、渋谷クアトロでライヴをやるというので、火曜日は太極拳の日なんだけど、お休みして行ってきました。いやー、正直な話、「ロック」にカテゴライズされる音楽のライヴに行くのも本当に久しぶりだったし、クアトロに来るのも本当に久しぶり。クアトロの下が全てbook offになってしまうなんて、前世紀に誰が想像できたでしょうか。そんでもって、前回自分がクアトロに来たのはなんだったろう?とずーっと考えていたら……ルーマニアのジプシー・バンド、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスだったような気がしてきて、少し悲しくなりました。なぜなら、その日は前座が忌野清志郎で、最後にはタラフドゥ(清志郎は彼らをわざとそう呼んでいた)との共演もあって、実に楽しいステージだったからです。まだガンのガの字も聞こえてこなかった頃の話です。

当日券買ったら819番で、クアトロってそんなに入るんだったっけ?と思いつつ、入ってみたらまあ、ほどほどに満員というカンジ(でも、結局、後で当日券も売り切れたらしい)。大昔、ここでマリのサリフ・ケイタのライヴを観たとき、あまりのギュウギュウ詰めで行きたくなったトイレにも行けないということもあったので、それに比べれば全然大丈夫ではありました。

前座のフォークシンガーの弾き語りに続いて彼らが登場……いや、もう、凄いのなんの。心底びっくりしました。45歳になってもまだこんなにビックリすることが音楽に残っていたかというくらいのものでした。

男性3人、女性3人の6人バンドです。中心はギターを弾いて歌う男性(スミマセン、メンバーの名前を一切知りません)、あとの男性はベースとドラム。女性のうち一人は歌とギターとベースとキーボードを曲によって使い分け。もう一人は歌とギター。もう一人は歌専門。

どんなカンジの曲かというのは説明すると長くなるので、聴いてください。ココでDIGITAL 7"(昔で言うところの7インチ・シングル盤のデジタル版ということですね=2曲)が無料でダウンロードできます。このうちの1曲目が、この日の1曲目でもありました。

聴きましたか? 素っ頓狂なヴォーカル。おかしなフレーズと音色のギター。ハーモニーのユニークな女性コーラス。ねじれたメロディ(そもそもこの1曲目のタイトルが「上昇するメロディ」ですから当然といえば当然ですが、どの曲もこんなです)と展開の曲。つっかかるようなドラム。ヘンでしょう?

なんですが、ライヴはですね、この録音で聴くようなのより、もっともっともっともっと線がぶっといのです! まずドラムのパワーがハンパない。もう全力で叩きつけてるカンジ(だからビートがなんかモタったように聞こえるのかもしれません)。ヴォーカルにしても男性も女性もやっぱりすっごいテンションで。まずその気迫に圧倒されてしまった。なおかつ、そのテンションでこの複雑なアレンジ、ハーモニーをビシバシ決めていく。もう、「今、僕が観てるのは一体何だ?」という興奮で一瞬、泣きそうになりました。それは会場に来ていた全員がそうだったようで、一曲目が終わった時の歓声も凄かった。その後も、その後も……なんか、とんでもないことに今立ち会ってるぞ、というワクワクが会場中に充満してた。

彼らを語るときによく引き合いに出されるのがトーキング・ヘッズ。観ててね、'70年代末にNYのクラブCBGBで初めてトーキング・ヘッズを観たときの観客の興奮とはこういうものだったのかもしれないな、と思った瞬間もありました。実際、昨年出たRED HOTのコンピレーション"DARK WAS THE NIGHT"の中ではデヴィッド・バーンと彼らのコラボ曲も入っていたし、ライヴでも共演しているそう。たしかに、歌のカンジも似ているし、アフリカ音楽への接近(ダーティー・プロジェクターズのこのヘンなギターはアフリカの民族楽器コラの音を、女性コーラスはピグミーのポリフォニーを匂わせます)といったあたりは中〜後期のヘッズにも通ずるものがあります。もっとも、ダーティーズの方がはるかに高度な引用、というよりもエッセンスを転化させてる気はするけれど。

とにかく素晴らしかった! YOU TUBEにもいっぱい画像上がってるので、ご興味のある方は探してみてください。

出口付近で、本当に久しぶりにお会いしたライターの佐藤英輔さん、五十嵐正さん、そして昔僕も書いてた「クロスビート」誌編集の播磨さん、さらにお名前は存じ上げていた赤尾美香さんらにお会いし、みんなでお好み焼き屋へゴー! 極めて近い年齢幅で居心地も良く、他では通じないマニアックな(笑)音楽の話をひたすらして、こちらもすっごく楽しかった!

Bitte Orca (Ocrd)

Bitte Orca (Ocrd)

Dark Was the Night

Dark Was the Night