三連休の友

Poetry [Blu-ray] [Import]

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この三連休に2本の映画を家で観たいと思っていたんだけど、見事に達成しました。大体、子どもらが寝てしばらくした10時くらいから見始めて。

1本はタイのアピチャッポン・ウィーラーセタクン監督の『ブンミおじさんの森』。ちょうど国内盤のDVDが出たばかりだけど、僕は米版のブルーレイで観た。もう1本は韓国のイ・チャンドン監督の『Poetry』(詩)で、これは日本ではこれから公開になる。タイトルはそのまま『ポエトリー』かな? 去年の映画祭でやったんだけどその時は観れず、なんだか公開もされないなあと思って、これも米版のブルーレイを注文したのだけど、その後でもうすぐ公開されることを知った。まあいいや。

『ブンミおじさん』は英語タイトルが"Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives"という非常に長いもので、「前世を思い出すことの出来るブンミおじさん」という意味合いだと思う。"Lives”だからその前世も一つじゃない感じだ。既にタイにあった文学作品からウィーラーセタクンがそれにインスパイアされて作った作品だという。

ウィーラーセタクンはここ何年か世界中の映画祭で話題になってる監督で、なにしろその名前からしインパクトが凄いが、僕は実際に観るの初めて。いやー、もう、なにがなんだか分からない映画です(笑)。一応ブンミおじさんが主人公なのかなあ?? とにかく幽霊になった妻は出てくるわ、猿になってしまった息子は出てくるわ、急に昔のお姫様の話が始まるわ……で、面白くないかというと、なんだがよく分からないなりに、メチャクチャ面白かったなあ! という印象が残る映画。

実は2週間前くらいに、横浜トリエンナーレという美術展に行って、そこでもウィーラーセタクンのビデオアートや写真がある一角を占拠してたんだけど、この映画の中に出てくる迷彩服の若者たち、あっちでも出てなかったか? というか、なんだろう、美術展で上映されてるビデオの映像がこの映画の中に混ざっても、大して違和感がないだろうなっていう。いわゆる一つのお話しを語る映画というよりは、断片の印象の積み重ねで観る人をある感興にまで連れて行くようなものなので、現代美術の文脈で語った方が遙かに説明がしやすいのかもしれない(僕には説明できないけど)。というか、説明なんかいらない。国内盤のDVDの宣伝文句の中に「考えるな、感じろ」というブルース・リーの名言が書かれているのだが、宣伝する人ももうどうしていいか分からなくて、この言葉に行き着いたというところだろう。そして、それはあながち間違ってないのである。

なんとなく、これと似たものを観ながら思いついたのは、パゾリーニだったり、リンチだったり、タルコフスキーだったり、アルゼンチンのソラナスだったり。でも、それらのどれよりもメチャクチャ、というよりも、素っ頓狂。「おい、オチは!?」と何度も突っ込みたくなる(笑)。

特典に監督のインタビューが入っていて(国内盤のDVDに入ってるものとは内容は違うようだ。そして米版には削除されたシーンもいくつか入っているのだが、これも国内盤には入ってない)、どうも、タイにはこういう不思議な話というのが普通にみんなで共有されているようで、それもオモロイな〜。

さて、もう1本。イ・チャンドンは僕大好きで。『オアシス』も『シークレット・サンシャイン』も極めて重いテーマながら、見終わった後に風が抜けていくような後味がある。決して爽やかというのでもないのだが。『ポエトリー』も重い話ではあるけれど、前2作のガツンとした喉ごしに比べると、ちょっと小品という感じがする。タイトル通りこの映画自体がひとつの「詩」のような味わいだ。主演の60代の女性を演じている人は(というかほとんど全編彼女が出ずっぱり)、韓国では往年の美人女優として鳴らした人のようで、メイキングのビデオで昔の映画のスチルなどを見ると、あまりにも美しいので驚いた。公開されたらみんなに観て欲しい。イ・チャンドン入門にはこれがいいかもしれない。