モノラル人間。

 数日前にこのブログに書いた、僕の片耳が聞こえない話を読んで、長年の友人にして今はNYで高嶋リカの名で活動している画伯(「雨のち晴子」の中のイラストを描いてくれた人……ねえ、信じられる? あの本が出て、この暮れで10年になるんだよ!)が、メールをくれた。

 このネタ、実はさっきツイッターでも書いたんだけど(笑)。それくらい嬉しかったんだ。で、彼女はあるサイトで見つけた話だと、今のiPodにはソフト上で音をモノラルにしてくれる機能がついているんだという。で、そのサイトを見たら、実演写真に載ってるのは、今僕が使っているのと同じ(それは去年の暮れの誕生日にカミさんがプレゼントしてくれたものだ)iPod nanoじゃん。オイオイオイオイオイ……と慌てて、「設定」→「再生」のところを見たら……あったよ、「モノラル再生」。即座にオンにしてよく知ってる曲を聴いてみた。わあ。全然違うじゃん。もちろんステレオ独特の音の広がりみたいなものはない(右耳が聞こえないとは言っても、かすかには聴力があるのと、最近はステレオといっても完全に左右に入れる音を分けるわけではなくて、その配分をどっちにどれくらい、みたいなことが多いから、聞こえない者は聞こえないなりに、ステレオの感触みたいなものは知っているのだ)。でも、ここに、全部の音が入っていて、そこには僕のなじみのない音も含まれている。とっても新鮮。

 実は一年以上前だろうか、知り合いで思いっきり理工系の若者で、仕事もソニーエリクソンで携帯を作っているという音楽友達がいて(イエス、にっしゃん! 君のことだ!)、彼がわざわざ僕のために1cm×2cm×7mmくらいの大きさのステレオ→モノラル変換器を作ってくれたことがあった。これをiPodのヘッドフォンジャックに差して、このモノラライザー(と勝手に自分でそう呼んでいたのだが)に空いている穴にヘッドフォンのプラグを差し込むと、ステレオの音がモノラルになるという仕組みのものだった。だが、今になって白状すると、幾分その機能に弱いところがあり、また数ヶ月使っているうちに周りを覆っていたプラ板(?)が崩壊してしまって……使えなくなっていたのだった。

 うーん。かれこれ10ヶ月もこの機能を知らずにいたのが返す返すも残念だが、しかし嬉しい。これでまたグッと通勤時間が楽しくなるなあ。

 両耳が聞こえている人には、いったい何をそんなに困ることがあるのか分からないかもしれない。まあ、そんなにたいしたことじゃあないさ。でも、特に、ステレオが一般化し始めた'60年代くらいの、たとえばビートルズの録音とか、米国の黒人音楽レーベル、アトランティックのたとえばレイ・チャールズの録音を今聴くと、びっくりするほど右左で入れている音を変えていたりするんです。極端な話、レイのもっとも有名な曲「ワダイセイ」(What'd I Say)では、僕の耳にはピアノの♪チャーンチャーンチャーンチャ♪チャーンチャーンチャーンチャというリフばかりが聞こえ、彼の歌声がまったく聞こえなかったりする。それで、あきらめて、次の曲に飛ばす(なにしろこの曲はシングル発売時にはA面にPart 1、B面にPart 2が入っていたくらいで、6分19秒とけっこう長い)。そんなことがあるのである。

 ああ、そうか。最近のiPodiPhoneだったら(iOS 3.1以降)、このモノラル機能、ついているので、普通に聞こえてるみなさんも、一度、モノラルの世界を体験なさってみると面白いかもしれませんね。カラー写真から色を抜いたモノクロ写真のような感じに受け取られる、とまでは思わないけれど、それなりに違いがあるんじゃないでしょうかねえ。

雨のち晴子?水頭症の子と父のものがたり

雨のち晴子?水頭症の子と父のものがたり